サキ 耐えがたきバシントン 9回

社会学を宣伝しようとする動きのなかにいるということは、生活と労苦が争う競技場にいるようなものであり、その荒々しい闘いやら競争やらは、型も種類も極めて近いものであることが、しばしば見いだされるのだった。エリザ・バーネットは、ヘンリー・グリーチと政治的、社会的な考え方を共有していたが、同時に相当細かく指摘したがる好みも共有していた。かつて、きわめて限られた範囲ではあるが、彼女が大きく影響していた幾つかの事件には、演説家の集団に雄弁術への入場券をわりあてたような出来事があり、その集団ではヘンリー・グリーチはじれったい一人になってしまっていた。その日の主な討議については、ヘンリーは彼女と意見が一致していた。しかし、彼女の尊敬すべき性質に関しては、彼はしつこく精神的に妨げる様子をみせていた。だから会話尻をとらえて彼女の名前をほのめかすということは、巧みにルアーを投げ込むようなことであった。どんな話題にしても、彼の雄弁に耳をかたむけなければいけないのであれば、極貧を防止する話題よりは、エリザ・バーネットへの非難のほうが好ましいものに思えた。

 

 フランチェスカは、嘘いつわりのない楽しみを感じて、笑いたい気持ちになった。

 

「あの方ときたら、お話になることすべてに、とてもお詳しいのよ」彼女は挑発的な見解をのべた。

 

 ヘンリーはおそらく、エリザ・バーネットの話題にひきずりだされたことを意識したのだろう。すぐ彼は話題の矛先を特定の人にむけた。

 

「この家の雰囲気が全般的に静かであるところからすると、コーモスはタルビーへ戻ったようだが」

 

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