経済学者たちは、必要以上に用心しているのかもしれない。当時の偉大な予言者ですら見通すことができた範囲とは、ある部分、現代の教育をうけたひとが見通す範囲よりは、ずっと狭いものだからである。生物学の研究からも或る程度わかることだが、環境が性格をつくりあげることに影響しているという事実は、社会学においても優勢をしめている。したがって経済学者が学んできたこととは、人間が進歩していく可能性についての見方を広げ、希望にあふれたものにするということである。経済学者が学んできた信念とは、注意深い思考によって導かれる意志は、環境を変えることが可能であるということである。また意志の力とは、性格を変える力に匹敵するものであるということである。また経済学者が学んできた信念は他にも、生活の新しい状況を好ましいものに変えるということである。すなわち経済を好ましいものに変えるということであり、また道徳、つまり一般大衆の経済状態を好ましいものに変えるということである。今でも、この偉大な目標への近道が信頼できそうなものであろうとも、拒むことが経済学者の義務である。なぜなら近道をするせいで、活力と進取の精神がだんだん弱まっていくからである。(1.Ⅳ.30)