1-6プログラムの基準を設定してから実行することの大切さ
インド政府がおこなっている目標を設定したプログラムのなかでも最大のものは、ターゲッティッド公共分配計画(TPDS)であるが、その計画のもとでBPL(貧困ライン以下)の家庭は、村のフェア・プライス・ショップと呼ばれているところから、支給された穀物とその他の食料を購入することができる。フェア・プライス・ショップは、その代わりとして近くの政府の倉庫から供給をうける。このプログラムについて、最近、政府の財務省が次のように語った。「およそ58%の支給された穀物が、対象とされるグループにまで行き渡らない。そうした事例のうち36%以上が、流通過程で流用されます。謹んで意見を伺いたいのですが、インドの貧しい人々は公立学校のすばらしい教育に値しないのでしょうか。貧しい人々が貧弱な資格さえ奪われるのを、座ったまま無力に見ていられるのでしょうか。」
財務省の役人が引用した数字で目立つことは(最近、政府が自らのプログラムを評価するためにつくった組織の報告)、最大の漏洩の原因とは、上記のことからもわかるようにBPLカード所有が適切に設定されていないからではない。穀類を途中で、そのまま盗んでしまうからなのである。漏洩36%のうち、20%とは輸送の途中のことである。一方で、そのほかの16%が、幽霊のBPLカード所有者、すなわち存在していない人へのカード発行である。
報告書では、いわゆる「イクスクルージョン・エラー(誤差を除外する)」という手段を提供している。こうして出された数字によれば、TPDSから食料の支給を受けているのは、BPLカード所有者のうち僅か57%にすぎない。言い換えるなら、このおびただしい食料の漏洩が、貧しい人々に届く費用になっているとは、とても言い難いのである。
一方でこれまで論じてきたように、基準を設定することは難しいことではあるが、横流しを防ごうとする政治的な意志があるのに、政府がそうできないのだと考えることは難しい。少なくともタミ・ナヅとウェスト・ベンガルというインドの二つの州では、盗みの割合は20%以下だった。レイニカとスベンソンによるウガンダの教育部門での漏洩の研究から、この疑いに対して策が講じられてきている。1995年には、中央政府から学校に送られたお金のうち、学校に届いたのは僅か20%だけだった。2011年には、政府は費やしてきたお金の公表も含め、多くの結果を公表し、漏洩は20%にまで下がった。
政治的な阻止力が働かないのは、基準を設定されたプログラムであり、貧しくない人を公にしめだしてるという事実からきているのであろうか。もし、それが原因であり、基準を設定することでは不十分に見えるとしたら、基準の設定をあきらめたほうが賢明だろう。こうすれば、除外されていた誤差が取り除かれることになり、また政治への影響力が大きい貧しくない人々をプログラムに近づけることにもなるだろう。