サキ「耐えがたきバシントン」26回 Ⅳ章

フランチェスカは、彼女なりの方法で、世界の誰よりもコーマスに愛情を注いでいたので、もし彼がスエズの東のどこかで日焼して茶色の肌になっていたなら、彼女は毎晩ベッドへはいる前に、本物の愛情をいだいて、彼の写真に接吻しただろうし、コレラの不安がおきたり、新聞のコラムに書かれている現地の噂を聞いたりすれば、不安にかられ、動揺しもしただろうが、それでも心の中で国家の必要を守るために、最愛の子を犠牲にするスパルタの母親に自分をなぞらえたのだろう。しかし自分の家の屋根の下に最愛の息子が居座って、不適切なまでの三次元空間を占め、その代わりとなるものは与えないのに毎日の犠牲を要求してくるうちに、彼女の心は愛情というよりも苛立ちをおびてきた。他の大陸で犯した悪事なら重大なものでも彼女は許しただろうが、チドリの卵が五つ入った皿から彼が三つ取っていったにちがいないという事実を見過ごす訳にはいかなかった。いない者も常に悪いのかもしれないが、それでも配慮に欠けた態度はあまりとらないものである。

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