サキ「耐えがたきバシントン」 Ⅳ章 33回

「むかいの女性に関心があるようだが」コートニー・ヨールがいった。

「以前、お会いしたことがあるような気がするもので」フランチェスカはいった。「お顔に覚えがあるのです」

「ルーヴルの狭い回廊で見かけたとでも、ダ・ヴィンチの絵が飾られている回廊で」ヨールはいった。

「きっとそうですわ」フランチェスカは答えたが、その女性への表現しがたい印象からくる満足を感じる一方で、ヨールが自分の救いになったことに困惑して、心は入り乱れていた。レディ・キャロラインのテーブルの端から、ヘンリー・グリーチの痛ましいまでに目立つ声があがると、当惑の色あいはますます強まって彼女を支配した。

 

「昨日、トルダム家を訪ねたのだが」彼はいった。「ご存知のように、その日は銀婚式だった。銀のプレゼントがたくさんあって、これ見よがしだった。もちろん複製のものもたくさんあるが、それでもプレゼントされるのは素敵なことだ。あんなにたくさんもらって嬉しかったことだろうよ」

「プレゼントを見せられたからといって羨ましく思う必要はないわ、二十五年の結婚生活のあとなのだから。どんな雲にも光は射すということなのね」レディ・キャロラインが穏やかにいった。

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