サキ「耐えがたきバシントン」 Ⅳ章34回

居合わせた客のうち三分の一の者がトルダム家と縁があった。

「レディ・キャロラインときたら、最初からとばしている」コートニー・ヨールはつぶやいた。

「二十五年間の結婚生活を曇り空よばわりするなんて、私にはとてもできないが」ヘンリー・グリーチは気弱にいった。

「結婚生活についての話しはおやめなさい」といったのは威厳のある女性で、その外見は現代画家が思い描く古代ローマの戦争の女神ベローナのようだった。「不運なことに、私が永遠に書くのは夫、妻、それからその変化形だわ。読者が私にそう望むから。新聞記者が羨ましくて仕方ないわ。伝染病にストライキ、無政府主義者のひそかな計画、そして他にも楽しいことを書くことができるもの、黴臭い昔の話題に縛りつけられなくていいのよ」

「あの女性はどなた、何を書いているのかしら?」フランチェスカはヨールにたずねた。ぼんやりと記憶にあるのだが、セレナ・ゴーラクリィの集まりで見かけたとき、彼女は賛美者の小宮廷に囲まれていた。

「名前は忘れたが、サン・レモかメントーネだかの別荘地に別荘があってブリッジがとても上手い女性だ。それに君と同じ女性にしては、ワインの素晴らしい鑑定家だ」

「でも何を書いているのかしら」

「やや堅苦しさに欠ける小説をいくつか書いている。最近の小説では、『その女がそう望んだのは水曜日のこと』というのがあるが、これはすべての図書館で禁止になった。君も読んでみるといいのに」

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