サキ「耐えがたきバシントン」Ⅳ章 35回

「なぜそう思われるのかわからないわ」

「昨日、コーマスがあなたの本を貸してくれたものでね」ヨールはいった。彼は形のいい頭をのけぞらせながら、からかって楽しむような横目で彼女をながめた。コーマスと親しくしていることを彼女が嫌っていることを知っていたが、その青年に及ぼしている自分の影響を内心ひそかに誇っていた。たとえ、その影響が浅はかなものであり、報われることのないものだと知っていたとしても。彼にすれば求められていない親しさであり、真面目に指導者の役目を引き受けたとき、おそらく粉々になってしまうだろう。若い政治家の目に好奇心が宿っているのは、もっぱら、コーマスの母親がふたりの友情を認めていないことにあった。

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