「敵はどうしようもなく困難な闘いで戦っているし、連中もそのことをわかっている」彼はさえずるように話した。「狂気にとりつかれている有様ときたら、むこうみずなガダラの豚のように全軍団でー」
「たしかにガダラの豚は転げ落ちているわ」レディ・キャロラインが穏やかだけど詮索好きな声をあげた。
ヘンリー・グリーチはあわてて微笑みを引っ込めると、陳腐な言葉に加え、もう少し安全な事実に頼ることにした。フランチェスカは、政治的手腕に関する兄の考えについては、福音に照らすこともなければ、驚くべき事実だと考えることもなく、かつてコーマスが指摘したように、その考えはたいてい退去を告げられていた。今の段階で彼女が見いだした気晴らしとは、むかいの娘について新たに詮索することであるが、その娘は節度を守りながらも、席の両側で苦心してかわされている会話に関心をもっていた。コーマスは非の打ち所がない姿をして、最善の話をしながらテーブルの片方の端に座っていたが、フランチェスカが素早く察知したところでは、コーマスのいる方向へと娘の視線はむかいがちだった。一度か二度、若者たちの視線がぶつかると、喜びがみるみる溢れ出し、理解していると言わんばかりの微笑みが相続人の顔にうかんだ。直観という昔からの女の才能に頼らなくても、好ましい貯金高をもつ娘をかなり惹きつけているのが若いパガンであり、その気になれば、パガンには賞賛をあつめる技があった。何か月もかけてようやくフランチェスカは、薔薇色の背景にうかぶ息子の将来を見いだし、意識しないうちに「不作法なくらいに金持ち」という意味ありげな表現は、正確には、どのくらいの合計になるのかと考えはじめていた。