「なにを手がけるにしても」ヨールはいった。「この庭に改善の手をいれてはいけない。ここは私たちが思い描く天国そのものだから。ユダヤ人はまったく違う形での天国を創り上げてくれたけど。ギリシャ人のかわりに、ユダヤ人を宗教上のユートピアの監督にむかえるなんてひどい話だ」
「ユダヤ人が本当に嫌いなのね」
「私は東ヨーロッパを旅したこともあれば、そこに住んでいたこともあるので」
「問題になっているのは地理のように思えるけど」エレーヌは言った。「英国では、ユダヤ人が嫌いな方はいませんから」
ヨールは首をふった。「私はユダヤ人がどんな人間かということをたくさん見てきた」
召使いが静かに、そして恭しく、柳のテーブルの上に紅茶と茶器を置き、また静かに景色から退いていった。エレーヌは真面目な若い女神のように座り、崇拝者たちに神秘にみちた飲み物をさしだそうとしていた。だが彼女の心は、ユダヤ人の問題について判断しようとすることにとらわれていた。
コーマスが急に立ち上がった。
「お茶にしては熱い」彼はいった。「白鳥に餌をあげてくる」
そしてバターをぬった黒パンがはいった銀の小さな籠を手にして行ってしまった。
エレーヌは静かに笑った。
「いかにもコーマスらしいわ」彼女はいった。「私たちのバターつきのパンを持っていくなんて」