「9のかわりに一番大きな数字ではじめるなら、ごまかしをするべきではなかったわね」レディ・キャロラインは相手に指摘したが、その口調は冷ややかで、穏やかなものながら相手を叱責していた。「隠しても無駄よ」もたもたと謝罪するセレナに、彼女は続けた。「テーブルでブリッジをしているときに、他のテーブルで何が起きているのか見たり聞いたりしても無駄なことだわ」
「いっぺんに複数のことをできるものだから」セレナは軽率にいった。「私は二重の頭脳をもっているにちがいないわ」
「節約して、本物の頭脳だけを持っていた方がいいと思うわ」レディ・キャロラインは感想をのべた。
「憂いなき麗しの貴女よ、そなたが言葉のトリックをあやつることにかけて、なかなか隅におけないこと常のごとし」別のテーブルでブリッジをしている者が礼儀正しく、抑えた口調でいってきた。
「サー・エドワード・ローンが、今度の私の夜会にくる話をしたかしら」セレナはいったが、一見、もう元気を取り戻していた。
「お気の毒に、サー・エドワードもひとがいいから。あなたのブリッジはどうなったかしら?」レディ・キャロラインは一気に聞いた。
「クラブ」とフランチェスカは答えた「それからお祈りをささげたわ。ところで、その同情にみちた形容詞はどういうことなのかしら」
フランチェスカは家族の利益をまもり、忠誠をつくす政府与党支持者だったので、そこで示された、外務省長官に投げつけられた軽蔑と戦いたい気持ちにかられた。
「彼はとても楽しませてくれるわ」レディ・キャロラインは満足げな様子をしめした。その楽しむ様子は狩りをする猫のものであり、あたかも猫が有益なスェーデン体操と鼠の注意深くて考えぬいた動きを注視しているかのようであった。