「そうかしら?外務省では輝かしい成功をおさめている方なのに、あなたもご存知だと思うけど」フランチェスカはいった。
「彼を見ていると、サーカスの象を思い出すわ。指示をしている人間より、はるかに知的なのに、言われるがまま、足をあげたり下げたりすることに満足しているの。行く途中でメレンゲを踏もうが、スズメバチの巣を踏もうが全然気にしないのよ」
「どうしてそんなことを言うのかしら」フランチェスカは抗議した。
「私が言ったわけではないわ」レディ・キャロラインは言った。「ゆうべ、コートニー・ヨールが国会でそう言ったのよ。討議を読んでいないの?調子よく議論していたわよ。もちろん、彼の見方に全面的に賛成というわけではないわ。でも話していることは裏づけのある真実で、気が利いているだけの意見ではないの。たとえば厄介な植民地帝国に対する政府の態度について、こんなふうに物言いたげな台詞でまとめている。『地理のない国はしあわせである』って」
「なんて馬鹿馬鹿しいくらいに偏ったことを言うのかしら」フランチェスカはさえぎった。「与党のなかには、そうした態度をとっていたひともいることは認めるわ。でも、みんなが知っているように、サー・エドワードは、心のなかでは健全な帝国主義者なのよ」
「そう言うなら、ほとんどの政治家が心のなかでは、となるでしょうね。でも、政治家の心をあてにするような無分別なひとはいないわ。仕事中の政治家の心なら尚更よ」
「とにかく野党の指導者が、なぜそうしたことについて議論するのかがわからない」フランチェスカはいった。