「アンドレイ・ドラクロフです」ヨールはいった。「この前書いた戯曲はモスクワで大きな成功をおさめ、ロシア全土で人気がとてもある作家です。最初の三幕ではヒロインは肺結核のため死ぬと思われているのですが、最後の幕で本当は癌で死にかけているということがわかります」
「ロシアの方って、本当に気を滅入らせるような方々じゃないこと?」
「憂鬱な気分を好む人たちではあるが、少なくとも気を滅入らせるような人たちではありません。悲しみを楽しみに変えてしまうだけのことです。そう、私たちが喜びを悲しみに変えると咎められるように。あの恐ろしいクロプシュトックの若者が歩幅をつめて、せかせか歩きまわっているのに気がつきましたか。こっちに近づいてきて、あなたと視線があったからという様子で話をはじめるでしょう」
「ただ顔を知っている程度よ。農業大学か、そんなところで勉強していたような気がするわ」
「そうです。紳士的な農場経営者になるために勉強していると教えてくれました。紳士になるということにしても、農場経営者になるということにしても、必修科目ではないのにと言いたかったのですがやめておきました」
「あなたは本当にひどい方だわ」レディ・ヴーラは言うと、そう言いたげな顔をした。
「忘れないように。天国の神のもとでは、私たちは皆等しいということを」