サキの長編小説 「耐えがたきバシントン」 Ⅻ章135回

コーマスの見とおしがくずれた今、フランチェスカは脅威にみちた自分の今後を悟った。現在の住まいはひとの心まかせの財産なので、昔から不安の種ではあったが、ふたたびよく知っている恐怖の念にかられることになった。ある日、と彼女が心にえがいたのは、おそろしいほど近い将来のことだ。ジョージ・サン・ミッシェルが階段をふみならして駆け上がってきて、期待にあえぎながら集めた情報をつげる姿であり、エメリーン・チェトロフが近衛師団の誰かと、あるいは公立記録保管所の誰かと結婚するという知らせを告げる姿であった。そうなればブルーストリートの家からも、隠れ家からも彼女の人生は根こそぎ倒されてしまい、どこかの安くて惨めな住まいへとさまようことになるだろう。そこでは、美しく、素晴らしいものをもてなしている厳かなヴァン・デル・メーレンとその仲間の絵も情けない環境におしこめられてしまい、さながら不遇の日々におかれた礼儀正しい国外移住者ということになるだろう。考えがたいことではあったが、煩わしいことながら考えなくてはいけないことであった。もしコーマスが自分のカードをうまくきって、邪魔者から富を自由にすることができる息子へと変貌していれば、目の前に影をあらわしている悲劇をかわすこともできただろうし、最悪の場合でもなんとか耐えられる程度にまで悲劇を縮小することができた。

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