サキの長編小説 「耐えがたきバシントン」 Ⅻ章136回

財力の背後にある金のおかげで、どこに住むべきかという問題は、どこに住みたいのかという簡単な問題になり、裕福な義理の娘の気配りのおかげで、メッカともいうべきシティの中心部を立ち去ることもなければ、荒野に建つ漆喰と煉瓦の家に行く羽目にもおちいることもないだろう。ブルー・ストリートの家のことで和解することがなくても、失われたエデンの園のかわりにフランチェスカを慰めることのできる他の住まいがあった。それなのに嫌悪すべきコートニー・ヨールが踏み入ってきて、黄金色をした希望と計画をひっくりかえした。そうしたことが達成されないせいで、彼女の将来は変更を余儀なくされるだろう。彼女が苦々しい気持ちをいだいていたのも無理はなく、今回の件に関するコーマスの過ちに寛大な見方をしたい気持ちにもなれなかった。ようやく彼が到着したときの彼女のあいさつには、同情の欠片もしめされていなかった。

「資産家の娘をつかまえる機会を逃したんだね」彼女は不愛想に指摘した。その日、彼女はふだんより疲れた心もちであった。

「あの娘とはうまくいっていたと思っていたのに」沈黙のままのコーマスに、彼女は非難をつづけた。

「ぼくたちは仲良くしていたよ」コーマスはいったが、意図的なぶっきらぼうさをつけくわえた。「でも、彼女から借りた金のことを気にしすぎているところがあった。ぼくのことを金目当てだと考えたんだよ」

「彼女からお金を借りたの?」フランチェスカはいった。おまえのことを好意的にみてくれていた娘からお金を借りるなんて、よっぽどの馬鹿だね。背後にいるコートニー・ヨールが、割り込んで追い出そうと待っていたのに」

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