サキの長編小説 「耐えがたきバシントン」 Ⅻ章137回

フランチェスカの声は惨めさと怒りにふるえた。思いのままになるかにみえた幸運は強い一撃をうけて、思慮にかけた軽蔑すべき愚かしい振る舞いの数々によって、脇におしやられてしまった。優れた船も、昔ながらの船乗りのせいで失われてしまった。コーマスは、仕立て屋やタバコ屋が熱心に請求してくる支払いにあてるために、求婚している娘にいやいやながら金を出させ、その結果、富が保証され、あらゆる点で望ましい花嫁が保証されている好機を投げ出してしまった。エレーヌ・ド・フレイとその富は、コーマスを幸運に導くものだった。だが彼はいつものように、自分に破滅をもたらすほうへと急いでしまった。このように考えているのだから、彼女が穏やかな表情になるわけがなかった。そのことについて考えれば考えるほど、フランチェスカはますます苛立つのだった。コーマスは低い椅子に身をしずめ、困惑のあともみせなければ、彼女の悔しさに関心をしめす風でもなかった。自分のことをかわいそうに思う彼女の思いを知ることで、おのれの敗北を意識して、苦い思いにとらわれた。いっぽうで彼女はののしり、すくなくとも思いを分かちあっているようにはみえなかった。そこで彼は、相手をからってやろうと心にきめ、自分のために望んでいたことが達成されても、それとも崩壊しても、そのあいだにあるものは些細で、つまらないものでしかないという見解をしめそうとした。

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