アーサー・モリスン倫敦貧民窟物語「ジェイゴウの子ども」11章73回

⒒章

ジョシュ・ペローが家に戻ったのは紅茶をのむときで、しかも上機嫌だった。その日のほとんどの時間をバッグ・オブ・ネイルズで過ごし、ハイ・モブスメンのご機嫌をとってきたのだった。ハイ・モブスメンとは、盛大に様々なことを実践している連中のことで、押し入り強盗や無駄話、詐欺、売春に手を染め、いい身なりをした外部組織で万引きやすりなどを行う連中と一緒に、競馬の配当を踏み倒したり、詐欺行為を働いたりしていた。身分が高いけれど、こうした破廉恥行為をする連中は、ジェイゴウから遠く離れた場所に住んでいた。馬飾りをつけたポニーを走らせ、軽馬車ギグーでくる者もいた。それはバッグ・オブ・ネイルズを実に都合のいい場所だと考えたからで、知り合いとのやりとりを遮断した。まさに行きつけの酒場だった。そこで人々はおちあい、なにがしかの約束をかわしては、悪たくみをしたり、ソブリン金貨を投げて賭け事をしたりした。こうした身分の高い連中を見ては、ジェイゴウのひとたちはうっとりとして、深い畏敬の念をささげた。ジェイゴウの住民のあいだに花開く野望とは、自分たちも、こうした眩いひとになりたいということだけだった。ある日、老ビバリッジがディッキーに話したのは、こうした連中についてであり、子どもでも半分はわかるような言葉で話してくれた。その老人は、バッグ・オブ・ネイルズがみえる縁石に腰をおろし、粘土でできた、黒ずんだパイプを少しくわえた。ディッキーをかたわらにひきよせ、パイプで指し示しながらいった。「毛皮を着た、あの男が見えるか?」

「どうかしたの?」ディッキーはこたえた。「アイスクリーム色のコートを着て、タバコをふかしている男のひとのこと? うん、みえるよ」

「それから、つば広の帽子をかぶった赤ら顔のひとは見えるかい、傘をもったひとだ」

「うん」

「どういう連中だかわかるか」

「ハイクラスのギャング集団だよ。いけすかないよ。めかしこんでるけど」

「そのとおりだ。いいか、ディッキー・ペロー、ジェイゴウの小僧や、あの連中を見ておくんだ。よく見ておくんだ。いつの日か、おまえが賢ければの話だが。ジェイゴウの他の連中よりも賢さを持ち合わせ、やくざっぷりも、ずうずうしさも誰にも負けなければの話だ。そして幸運にも恵まれたら、それも千分の一の確率なんだが、そのときはお前も連中のようになることができるんだ。贅沢のし放題、好きなときに酒を飲んで、真っ赤な、にきび面をしているだろう。あそこに見えているものが、おまえの人生の目的であり、人生の手本だ。読み、書きを学ぶんだ。できるだけ多くを学ぶんだ。ずるさも学び、誰も容赦するな。そして決して立ち止まるな。そうすればおそらく」彼は、バッグ・オブ・ネイルズのほうに手をさしだした。「あれが、お前にとって最上の世界なのだ。ジェイゴウに生まれ育ったお前が、ここから抜けだす唯一の道だ。ああすれば牢獄にはいることもなければ、びくびく脅えることもない。悪のかぎりをつくせ、そうすれば神様も助けて下さる、ディッキー・ペロー。神様は慣れていらっしゃる。お前はジェイゴウで生まれ、育ったのだから」

 老ビバリッジは話す内容も、話し方も非常に変わっていたので、ジェイゴウの人々は寝言をいっているか、このうえない愚か者だと思っていた。だからディッキーも、話されたことを振りかえって考えたりはしなかった。

 

Josh Perrott reached home late for tea but in good humour. He had spent most of the day at the Bag of Nails, dancing attendance on the High Mobsmen. Those of the High Mob were the flourishing practitioners in burglary, the mag, the mace, and the broads, with an outer fringe of such dippers—such pick-pockets—as could dress well, welshers, and snides-men. These, the grandees of rascality, lived in places far from the Jago, and some drove in gigs and pony traps. But they found the Bag of Nails a convenient and secluded exchange and house of call, and there they met, made appointments, designed villainies, and tossed for sovereigns: deeply reverenced by the admiring Jagos, among whom no ambition flourished but this—to become also of these resplendent ones. It was of these that old Beveridge had spoken one day to Dicky, in language the child but half understood. The old man sat on a curb in view of the Bag of Nails, and smoked a blackened bit of clay pipe. He hauled Dicky to his side, and, pointing with his pipe, said:—’See that man with the furs?’

‘What?’ Dicky replied. ‘Mean ‘im in the ice-cream coat, smokin’ a cigar? Yus.’

‘And the other with the brimmy tall hat, and the red face, and the umbrella?’

‘Yus.’     

‘What are they?’

”Igh mob. ‘Ooks. Toffs.’

‘Right. Now, Dicky Perrott, you Jago whelp, look at them—look hard. Some day, if you’re clever—cleverer than anyone in the Jago now—if you’re only scoundrel enough, and brazen enough, and lucky enough—one of a thousand—maybe you’ll be like them: bursting with high living, drunk when you like, red and pimply. There it is—that’s your aim in life—there’s your pattern. Learn to read and write, learn all you can, learn cunning, spare nobody and stop at nothing, and perhaps—’ he waved his hand toward the Bag of Nails. ‘It’s the best the world has for you, for the Jago’s got you, and that’s the only way out, except gaol and the gallows. So do your devilmost, or God help you, Dicky Perrott—though he wont: for the Jago’s got you!’

Old Beveridge had eccentric talk and manners, and the Jago regarded him as a trifle ‘balmy,’ though anything but a fool. So that Dicky troubled little to sift the meaning of what he said.

 

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