「かあさん」ディッキーはいって、彼女の腕をひっぱった。「ピジョニー・ポールが家にきている。ルーイの面倒をみてくれている。すぐに戻ってくるよう、かあさんに伝えてと言われたんだ」
ピジョニー・ポールが?彼女がどうして部屋にいるのだろう? 人々から敬われているハンナ・ペローの怨霊が、怒りにかられながら立ち上がった。行かなくてはいけないと考えたのだ。彼女は立ち上がって、なにが起きたのかと戸惑いながら、スカートのまわりにまとわりつくディッキーと一緒に、家に戻っていった。
ピジョニー・ポールは、赤ん坊を抱えて窓辺にすわっていたが、その悄然とした顔から血の気がひき、怖れが浮かんでいた。「ここに、ここにきたのには理由があるんですよ、ペローの奥さん」彼女はかすれ声で話したが、その声はとぎれがちで、そのたびに静けさがたちこめた。「ここにきたのは、奥さんが外に出たのを見たからで。赤ん坊がひとりになってしまうと思ったからですよ。そうしたら、この子が…この子はひきつけをおこしていました。顔はこわばって、真っ青でしたよ。小さな口で歯ぎしりしてました。たった今、この世を去ったところです…でも、どうすればいいかわからなくて。この子ときたら…なんて、なんて」
ハンナ・ペローは呆然と見つめながら、子どもを抱き上げたが、その腕はだらりと下がった。しなびて老けた表情は、ルーイの顔から消えていた。虚空を見つめる瞳は、瞼がとじられていた。血の気が失われた唇は、かつての噛みしめる苦しみはなく、微笑みすらうかべていた。それというのも、死んだ子どもたちと遊ぶという、あの天使の顔を見たからであろう。
ハンナ・ペローはうつむいた。「こんなことが」呆けたように彼女はいうと、寝台に腰かけた。
奇妙な、しわがれ声が体からあふれ出してきた途端、ピジョニー・ポールは部屋から重い足どりで出ていったが、そのときの彼女の様子は、片方の腕をまげながら顔におしあてて、まるで学校にかよう子どものように泣いていた。ディッキーは、この様子をながめているうちに、訳がわからなくなってきた。やがてジョシュも戻ってきて、呆けたように凝視し、口をぽかんとあけたまま、忍び足で歩いた。だが、あとをついてきたキドー・クックに声をかけられると、彼は小さな体をつかんで診療所にむかい、扉をがちゃがちゃ音をたてて若い医学生を起こしたのだった。
‘Mother,’ said Dicky, plucking at her arm, ‘Pigeony Poll’s at ‘ome, nussin’ Looey; she told me to tell you to come at once.’
Pigeony Poll? What right had she in the room? The ghost of Hannah Perrott’s respectability rose in resentment. She supposed she must go. She arose, mystified, and went, with Dicky at her skirts.
Pigeony Poll sat by the window with the baby in her arms, and pale misgiving in her dull face. ‘I—I come in, Mrs Perrott, mum,’ she said, with a hush in her thick voice, ‘I come in ‘cos I see you goin’ out, an’ I thought the baby’d be alone. She—she’s ‘ad a sort o’ fit—all stiff an’ blue in the face and grindin’ ‘er little mouth. She’s left auf now—but I—I dunno what to make of ‘er. She’s so—so—’
Hannah Perrott stared blankly, and lifted the child, whose arm dropped and hung. The wizen age had gone from Looey’s face, and the lids were down on the strained eyes; her pale lips lay eased of the old pinching—even parted in a smile. For she looked in the face of the Angel that plays with the dead children.
Hannah Perrott’s chin fell. ‘Lor’,’ she said bemusedly, and sat on the bed.
An odd croaking noise broke in jerks from Pigeony Poll as she crept from the room, with her face bowed in the bend of her arm, like a weeping schoolboy. Dicky stared, confounded…. Josh came and gazed stupidly, with his mouth open, walking tip-toe. But at a word from Kiddo Cook, who came in his tracks, he snatched the little body and clattered off to the dispensary, to knock up the young student.