アーサー・モリスン倫敦貧民窟物語「ジェイゴウの子ども」18章129回

二度、キドー・クックも通ったが、ウィンクをしただけで、気づいた素振りは見せなかった。そこでディッキーは、自分の信用を傷つけてはいけないというキドーの気遣いに感謝した。一度、老ベヴェリッジも通ったが、大股に歩くものだから、彼のボロ着も、「生活に困っています」と帽子にチョークで書かれた言葉も飛び去っていったが、それが街を散歩するときの、彼のいつもの歩き方だった。ディッキーの姿に気がつき、彼はふと立ち止まって言った。「ディッキー・ペローか? こんなところに、どうして?」それから足早に立ち去ったが、キドー・クックと同じように気遣っている様子がありありとしていた。トミー・ランの場合、彼の心を遠ざけたのは、ディッキーが最初から拒んだせいで、夜中のお祭り騒ぎ用の、錫のカップにはいった糖蜜を隠すことをしてまで、拒んだせいだった。それに姿もみせることはなかった。このようにして一週間ほどが過ぎた。

だがウィーチさんは、ディッキーのことを思い出しては寂しくなった。ディッキーからの訪問をうけることなく過ごす日は、稀だったからだ。しかもディッキーには、良い品を持ってくる腕があった。それなのにウィーチさんは、ディッキーのこの働きに、一週間に十シリングを払おうとはしなかったのだ。そのようなわけでウィーチさんは調べているうちに、ディッキーが絵の具屋で働いている事実をつきとめた。当然のことだが、彼は困惑した。さらに困惑したのは、そうした人生をおくるようになれば、ディッキー・ペローには怖れるものがなくなるだろう。そして都合の悪いことに、新しい仲間にむかってウィーチさんの商売のことを話すかもしれない。こういうことを考え、この慈善家は物思いにふけるのだった。

 

Twice Kiddo Cook passed, but made no sign of recognition beyond a wink; and Dicky felt grateful for Kiddo’s obvious fear of compromising him. Once old Beveridge came by, striding rapidly, his tatters flying, and the legend ‘Hard Up’ chalked on his hat, as was his manner in his town rambles. He stopped abruptly at sight of Dicky, stooped, and said:—’Dicky Perrott? Hum—hum—hey?’ Then he hurried on, doubtless conceiving just such a fear as Kiddo Cook’s. As for Tommy Rann, his affections were alienated by Dicky’s outset refusal to secrete treacle in a tin mug for a midnight carouse; and he did not show himself. So matters went for near a week.

But Mr Weech missed Dicky sadly. It was rare for a day to pass without a visit from Dicky, and Dicky had a way of bringing good things. Mr Weech would not have sold Dicky’s custom for ten shillings a week. So that when Mr Weech inquired, and found that Dicky was at work in an oil-shop, he was naturally annoyed. Moreover, if Dicky Perrott got into that way of life, he would have no fear for himself, and might get talking inconveniently among his new friends about the business affairs of Mr Aaron Weech. And at this reflection that philanthropist grew thoughtful.

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