アーサー・モリスン「ロンドン・タウンへ」4章53回

「どうしたんだ、いったい」ボブ・スモールピースは声をかけた。腕で相手をささえたまま、片手で老人の髪をそっとさわった。血がついていた。血はあちらこちらに飛び散り、滴り落ちていた。「たいへんだ。頭をひどく打っている」ボブはいった。そう言いながら老メイを両腕にかかえたが、その様子は乳母が子どもを抱きかかえるようであった。「だれでもいいから近くにいる者を呼んでこい。走れ、ジョニー。流れ星のように走って、大急ぎで医者を連れてくるんだ」

「ダン・カウに連れて行くの?」

「いや、家が一番いい。おじいちゃんをしっかり支えているから。さあ走ってきてくれ」

「紫の皇帝と小さなおまわりさんが」老人は甲高い声で、うわごとを言いはじめた。「小さなおまわりさんとマーシュ・リングレットがあちらこちらにいる。鞄を手紙でいっぱいにして一周歩きはじめたけど、まわり終えたら、みんないなくなっていた。みんないなくなっていた。ロンドンが近づいているせいだ。からっぽの鞄は壊れてしまった――」やがて彼の声は小さくなって訳の分からない早口となった。そしてボブ・スモールピースは、彼を森の家へと運んだ。

ジョニーにすれば、ゼイドンまですごい勢いで駆けるうちに、なんとも言えない恐怖におそわれ、ばかばかしい悪夢を見ているような気持ちになった。あの赤ん坊じみた片言のせいで、白髪の祖父はまるで赤ん坊のようだった。彼はまばたきをしながら走った。帽子の下の頭はずきずきと痛み、まさに夢のなかをかけているのだという気がしてきたのだった。

“Why, what’s this?” said Bob Smallpiece, retaining the arm, and lifting a hand gently to the old man’s hair. It was blood, dotted and trickling. “Lord! he’s had a bad wipe over the head,” said Bob, and with that lifted old May in his arms, as a nurse lifts a child. “They-don’s nearest; run, Johnny boy—run like blazes an’ fetch the doctor tantivy!”

“Take him into the Dun Cow?”

“No—home’s best, an’ save shiftin’ him twice. Run it!”

“Purple Emperors an’ Small Coppers,” began the old man again in his shrill chatter. “Small Coppers an’ Marsh Ringlets everywhere, and my bag full o’ letters at the beginning of the round, but I finished my round and now they’re all gone; all gone because o’ London comin’, an’ I give in my empty bag—” and so he tailed off into indistinguishable gabble, while Bob Small-piece carried him into the wood.

To Johnny, scudding madly toward Theydon, it imparted a grotesque horror, as of some absurd nightmare, this baby-babble of his white-haired grandfather, carried baby-fashion. He blinked as he ran, and felt his head for his cap, half believing that he ran in a dream in very truth.

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