チェスタトン「マンアライヴ」一部三章第89回

彼女が口をひらく前に、扉が勢いよく開いた。浮かれ騒ぐロザムンド・ハントが、華やかな白の帽子をかぶり、ボアを襟元につけ、日傘をさして、戸口に立っていた。そのくったくのない顔には、子供じみた驚きがうかんでいた。

「ねえ、面白い話しがあるの」彼女は息をきらしながら言った。「どうすればいいのかしら。とりあえずウォーナー先生を電報で呼んだところ。そうすることしか思いつかなかったから」

「なにがあったの?」ダイアナは幾分つっけんどんに訊ねた。だが、助けを求められたもののように前にすすみでた。

「それがメアリーのことなのよ」相続人であるロザムンドはいった。「私の話し相手のメアリー・グレーのことなのよ。あなたの狂ったお友達のスミスとかいう人が、彼女に結婚を申し込んだの。庭でのことよ。それも会ってから十時間しかたってないのに。今、彼女をつれて、結婚の許可をもらいに行こうとしているわ」

アーサー・イングルウッドは、開いているフランス窓のほうへと近づき、庭を眺めた。黄昏のひかりのなか、まだ黄金色がのこっていた。そこでは何も動くものはなく、ただ鳥が一羽か二羽、ぴょんぴょん跳び歩いては囀っていた。生け垣をこえ、柵のむこうには、庭の門からつづく道路があり、そこには二輪馬車が控えていたが、その屋根にはグラッドストーンの鞄があった。

 

Before she could speak the door burst open, and the boisterous Rosamund Hunt, in her flamboyant white hat, boa, and parasol, stood framed in the doorway. She was in a breathing heat, and on her open face was an expression of the most infantile astonishment.

“Well, here’s a fine game!” she said, panting. “What am I to do now,
I wonder? I’ve wired for Dr. Warner; that’s all I can think of doing.”

“What is the matter?” asked Diana, rather sharply, but moving forward like one used to be called upon for assistance.

“It’s Mary,” said the heiress, “my companion Mary Gray: that cracked friend of yours called Smith has proposed to her in the garden, after ten hours’ acquaintance, and he wants to go off with her now for a special licence.”

Arthur Inglewood walked to the open French windows and looked out on the garden, still golden with evening light. Nothing moved there but a bird or two hopping and twittering; but beyond the hedge and railings, in the road outside the garden gate, a hansom cab was waiting, with the yellow Gladstone bag on top of it.

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