『抱茗荷の説』
著者:山本禾太郎
初出:1937年(昭和12年)「プロフイル」
青空文庫
『仙人掌の花』ですっかり気に入ってしまったので山本禾太郎作品をさらにもう一篇読んで見た。この作品もなんとも怪しい雰囲気たっぷりで気に入ってしまった。でも不満も少々…。
以下はネタバレありの駄文。
お遍路さんが立ち寄る家に生まれた君子。思い出のなかのお遍路さんの様々な姿の描写が何とも怪しい感じを醸し出していく。父が死んだ晩に宿をもとめた二人の女遍路は白髪の老女、鼠色の御高祖頭巾の若い女。二人の女遍路が出発するときに、病気の母にのましてくれと置いていった金色の札。その札をいれた水をのんで父は死んでしまう。父の死後、生活に困窮した母は旅に、その途中で或るお屋敷の門をくぐったまま、母は戻ってこない。幼い君子は古びた人形を片手に祖母の家へ戻る。おぼろげながら母が池に浮かんでいた気がすると語る。
時がたち、君子は記憶をたどって旅していく途中、母が消えた屋敷をついに見つける。
そこの女主は亡き母の双子の姉妹。母と伯母は小さい頃から仲が悪く、母を殺したのも伯母だった。
「抱茗荷の説」という題、お遍路さん、古いけれど高価な人形、どこにあるかは分からないけれど大きな屋敷、母が沈んでいた池、御高祖頭巾…怪奇幻想の小道具たっぷりの作品である。ただ残念なのは、夢中になって頁を繰りだしたころに突如、この作品は終わってしまう。小道具をたっぷりばらまいたまま、話をじゅうぶんにふくらませることなく急にしぼんでしまったようで寂しい。山本禾太郎は、この短編をふくらませたような長編は書いているのだろうか。あれば是非とも読んでみたい。
読了日2017年7月27日