『活人形』
著者:泉鏡花
初出:1983年(明治26年)「探偵小説全集十一集」春陽堂
青空文庫
鏡花のデビュー二作目にあたる本作品は探偵小説、鏡花も探偵小説を書いていた!
日本人が初めて書いた探偵小説は、黒岩涙香「無惨」1989年(明治22年)らしい。その僅か四年後に探偵小説を書いたのだから、鏡花も探偵小説が気になったのだろう。
本書も、おどろどろしい雰囲気の小道具が散りばめられている。
まず題名「活人形」からして怖い。
三日月探偵というあだ名の、左の頬に三日月形の古傷がある探偵吏。
小指一節喰い切って指切断(きり)をした女。
人形の後の座敷、人形室。
庭の空井戸。
梁にしばられた女。
小道具も怖いけど、鏡花の語り口も怖い。
「あなやと背後を見返れば以前の声が、「赤得、赤得」と笑うがごとく恨むがごとく嘲るごとく、様々声の調子を変じて遠くよりまた近くより、隙間もあらせず呼立てられ、得三は赤くなり、蒼くなり、行きつ戻りつ、うろ、うろ、うろ。」
話の内容は、死骸と描写していた男がふと一瞬命を取り戻して恨みの物語を語ってきかせて、また死ぬ…なんて、そんな瀕死の重病人が語るわけがない。また話の筋もたいしたことはない。でも小道具と語り口で十分こわい。
鏡花がもっと探偵小説を書いたなら、カーの翻訳を手がけてくれたら…としばし夢想してしまった。
読了日 2017年7月28日