隙間読書 三遊亭圓朝 「怪談 牡丹灯篭」

「怪談 牡丹灯篭」

作者: 三遊亭圓朝
初出:1864年(文久3年)
青空文庫

幽霊には雨がよく似合う。と言うわけで、先日土砂降りの雨のなか、谷中全生庵で開催されている圓朝コレクションの幽霊画展を観に行った。
そこで圓朝筆の掛け軸が展示されていたのだが、髑髏を描いたユーモラスなタッチの絵でありながら、その上に書かれた文字は何とも風格がある…私には読めないので、あくまで感じだけれど。
髑髏の掛け軸のおかげで三遊亭圓朝に興味がわき、圓朝が24歳のときに創作した落語「怪談 牡丹灯篭」を読んでみることに。

「牡丹灯篭」は知っていたつもりだけど、知らないこともたくさんあった。
二葉亭四迷が「浮雲」を書くときに「牡丹灯篭」の講演筆記を参考、言文一致に大きな影響を与えたとのこと。現代の日本語のルーツは怪談なんだ…と嬉しい発見。

浪人の萩原新三郎と幽霊になったお露の恋物語…の部分だけが記憶にあったけど、複数の話が語られながら進んでいく斬新な構成の作品だということも発見。
幽霊との恋物語。
親の仇打ち。
主君の仇打ち。
お家乗っ取りを企む悪カップル。
さらに強欲な夫婦。
生き別れになっていた母との再会。
ときにはゾッとしたり、ときにはクスリと笑ったり、ときには拍手したりしながら堪能。
これだけの話がバラバラになることがないなんて凄い!
これは落語だから、暗記して語るのだろうか…凄い!

登場人物の発想も現代に生きる私にはついていけない凄い発想である。このあたりの無茶苦茶感は文楽に通じものがある。
夫の浮気が発覚すると、強欲夫婦の妻はこう言う。
「それじゃアお前こうおしな、向の女も亭主があるのにお前に姦通くくらいだから、惚れているに違いないが、亭主が有っちゃア危険だから、貰い切って妾にしてお前の側へお置きよ、そうして私は別になって、私は関口屋の出店でございますと云って、別に家業をやって見たいから、お前はお國さんと二人で一緒に成ってお稼ぎよ」

恋する男に会いたいから 魔除けの札を剥がしてほしいと幽霊に頼まれて困る夫に、強欲な妻はこう助言する。思わず笑ってしまう場面である。
伴「馬鹿云え、幽霊に金があるものか」
みね「だからいゝやね、金をよこさなければお札を剥さないやね、それで金もよこさないでお札を剥さなけりゃア取殺すというような訳の分らない幽霊は無いよ、それにお前には恨のある訳でもなしさ、斯ういえば義理があるから心配はない、もしお金を持って来れば剥してやってもいゝじゃアないか」
伴「成程、あの位訳のわかる幽霊だから、そう云ったら得心して帰るかも知れねえ、殊によると百両持って来るものだよ」
みね「持って来たらお札を剥しておやりな、お前考えて御覧、百両あればお前と私は一生困りゃアしないよ」
伴「成程、こいつは旨え、屹度持って来るよ、こいつは一番やッつけよう」

この演目は歌舞伎では上演されているらしいが、なぜ文楽では上演されていないのだろうか?
カランコロン…と下駄の音をたててやってくる女の幽霊が、足のない文楽人形には無理なんだろうか?
最後、骨になって発見される女の演出も文楽では難しいのだろうか?

この作品はやはり耳で聴いて楽しみたい。8/25全生庵で開催される「牡丹灯篭」の語りに行きたくなった。それには翌日の英国怪奇幻想小説翻訳会の課題を終わらせなくては…。頑張ろう。

読了日:2017年8月17日

 

 

 

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