『紅玉』
作者:泉鏡花
初出:1913年
青空文庫
鏡花三大戯曲の「夜叉ヶ池」「海神別荘」と同じ1913年の作である。だが三大戯曲には入っていないため、読むひとも少ない作品ではないだろうか。でも「夜叉ヶ池」「海神別荘」には劣らず、いろいろ想像させるところの多い作品。上演しても、他の作品に負けない魅力があると思う。
まず冒頭部分で子供たちが輪になって歌い、この輪のなかにはいると急に踊りだすと画工に告げる場面。子供たちは「踊らうと思って踊るんぢゃないんだよ。ひとりでにね、踊るの。踊るまいと思っても。だもの、気持ちが悪いんだ」と説明する。でも画工は「此の世の中を、酔って踊りや本望だ」と、その輪のなかに入っていく。そして読んでいる者も、画工と一緒に妖しの世界へ入っていく。
踊りの輪のなかに「顔黒く、嘴黒く、烏の頭(かしら)して真黒なるマント様(よう)の衣(きぬ)を裾まで被りたる異体のもの」が入ってくると、男は踊りだして、さらに幻想にみちた世界がはじまる。
子供たちの歌の輪が異次元への橋わたしとなる此の戯曲、上演されてもいいと思うのだが。なぜ上演されないのかが謎である。
読了日:2017年9月26日