「馬の脚」
作者:芥川龍之介
初出:1925年「新潮」
文豪ノ怪談ジュニア・セレクション
脳溢血で死んだ主人公が死の世界で、不思議な中国人に馬の脚をつけてもらい、ふたたび生き返る。だが馬の脚は馬の脚、思うように動かせない。その滑稽さが恐怖へとかわり、何が正気なのか分からなくなる作品。
この作品でも東雅夫氏の注のおかげで、何げない描写にこめられた大きな意味を知る。
たとえば死んだ半三郎が「見たことのない事務室へ行く場面」。東氏の注によれば、「死者がおもむく冥府を、事務所のように描いているのである。『窓の外はなにも見えない』とあるのが、さりげなく異界性を示した描写で秀逸」とある。こんな短い言葉にそんな意図がこめられていたとはと吃驚。
馬の脚をくっつけられた半三郎が生き返る場面での梯子段の意義も、東氏の注を読んでそういうことなのかと初めて知る。「梯子段を転げ落ちた」という箇所は、東雅夫氏によれば、「あの世とこの世の境界を階段で表現しているのである。記記神話で黄泉国(死の世界)と地上の堺にあるとされる黄泉平坂を連想させる」とのこと。なるほど。
怪談に窓と階段や梯子がでてきたら、それは異次元へのかけ橋なのかも…と考えて読むとさらに楽しいのかもしれない。
読了日:2017年10月6日