『百物語』
作者:三遊亭圓朝
初出:「やまと新聞」1894年1月6日付掲載
文豪ノ怪談ジュニア・セレクション 呪
文豪ノ怪談ジュニア・セレクションのいいところに、初出を丁寧に書いてくれているという点がある。
そういうわけで圓朝のこの怪談が掲載されたのは、どうやら新聞で、1月6日だということが分かる。明治時代の日本は、新聞が怪談を堂々と掲載、しかも松の内にである。冬、暖炉わきで怪談に興じる英国の人たちにも負けないお化け好きの時代だったのだ。
この短編も本当に短いものながら、雰囲気の盛り上げ方がたまらなくいい。
その燈心がだんだんめりこんで、明かりが暗くなるにしたがってどこともなく陰気になりますから、掻きたてるとそのときはちょっと明るくなりますが、じきに燈心がめりこんで暗くなりますと、次第次第に陰気になってまいると体がぞくぞくいたすようだから
明かりが幾度つけてもすぐに暗くなる…の繰り返しで不安感は増していく。その場にいたら嫌だろうけど、読んでいるだけなら、この不安感も楽しい。
すると蚊帳が自分の身体へ巻きつくようでございますから、大方風のために蚊帳が巻きつくのであろうと思いますから、手を伸ばしてむこうへ蚊帳を押しますと間もなく元のとおりに蚊帳を押してまいるから、田川先生もいよいよ変だと存じて首をあげてそっと見ると、真っ黒な細長い手で蚊帳を押しておったから
どことなくユーモラスな描写がつづいたあと、最後にいきなり「真っ黒な細長い手」がでてくる。だから、よけいに怖いのだなあと思いつつ、こういう話を新聞で読めた明治人がなんとも羨ましくなった。
読了日:2017年10月21日