日比谷ミステリ読書会 坂口安吾「不連続殺人事件」&「復員殺人事件」にむけて再読。何度目だろうか…と思い、このブログの右上検索窓に「復員殺人事件」と入力、検索したら、これで三度目だった…と、衰えゆく記憶を補うためにブログを利用しているような情けない次第。
以下はネタバレあり。
【疑問】安彦が出征まえに美津子に渡したとされる昭和17年の日記と、その日記の封にしるされていたマルコ伝第八章二十四の謎
もし美津子が犯人なら、安彦の日記の話もつくり話かもしれませんし。マルコ伝「人を見る。それは樹のごとき者あるくがみゆ」は久七に罪をなすりつけるために美津子が考えた嘘かもしれませんが…。
でも、私としては作品によく「鬼」を登場させる安吾なので、このように考えたいと思っています。
安彦は実際に封をした日記をわたして、マルコ伝も封に記していた。
美津子は封をほどき日記を見たが、はっきりと犯人は示されてなかった。日記にあったのは「家のなかの者がこうしたことをするなんて」程度の記述であった。もちろん封にはマルコ伝が記されていた。そこで美津子は、安彦が材木を背負って「樹のごときもの」である久七を犯人だと誤解している、しめしめと考えたので日記の話を持ち出した。
でも安彦がマタイ伝を封に記した真意は、
「大兄を打つを見る。それは姫(鬼)のような者。野歩く。我みゆ」という言葉をメッセージとして密かに忍ばせたのではないでしょうか? そして美津子を、その二面性を告発しているのではないでしょうか?
初出第1回60頁の挿絵に下記のような配列で、ローマ字で記してある点が気になります。
KIは樹ではなくて、姫(き)では? さらに鬼(き)もかけているのではないでしょうか?安吾の世界にでてくる二面的要素をもつ女性とつながるような気もします。
安吾が挿絵に記したローマ字から、漢字を以下のように考えてみました。
HITO O オー(大兄)を打つを
MIRU 見る
SORE それ
WA は
KINO (姫)(鬼)の
GOTOKI ごとき
MONO 者
NO の(野)
ARUKU 歩く
GA 我
MIYU 見ゆ
【疑問】
小田原駅前で電話をかけていた女「米田とみ子」が美津子なら、なぜ数時間前に出会ったはずなのに博士たちは分からなかったのでしょうか?なぜ電話をしていたのか?また再会したときに博士たちが分からなかったのはなぜか?
ー台所でココアをもう一杯もらう前後に、台所隣の部屋にいる安彦を殺害。大急ぎで着替えて、定夫をよびだす電話をしたのは? この幻の女に罪をなすりつけようと、大慌てでふだんとは違う恰好をわざとしたのでは?
娼婦のような恰好をしているようだから、たぶん美津子と同一人物だとは分からなかったのでは?
「洋服ダンスがひらかれて、洋服が投げこまれ、床の上まで垂れ落ちていた。ダラシのない性格か、さもなければ、にわかに眠くなったのかもしれない」333頁
「二十三四、ちょツと、美しい女だが、娘だか、商売女だか見当がつかなかった」297頁
「美津子様の用いていらっしゃる品物です。ふだん和服の時に使っていらっしゃる物です」325頁
「彼女の言葉なり、態度から判断したところでは、この女はセミプロ級の娼婦」496頁
ふだんは和服で過ごしていながら商売女のようにもみえる二面性は、安吾作品にでてくる二面性のある女性、他の安吾作品にでてくる戦後を自堕落に生きる女主人公たちにつながる気がします。
また博士の事務所がある有楽町は、戦後、米兵相手の娼婦が大勢いた場所。最初にこういう場所をもってくることで、美津子もパンパンをやっていたこと、そういう時代を描こうとした意図を感じます。
【疑問】美津子はピストルをどこに隠したのか?
病院に運ばれるときにピストルも一緒にスカートのなかとかにいれガーターベルトで固定して隠し持っていったのでは?病院では警察の荷物にしのばせ、家からピストルを処分、外部から犯人がきたと思わせたのでは?
「ピストルが邸内のどこにもないということが決定的になるだけでも…犯人は当夜家にいなかった誰かの中の一人であります」369頁