作者 エドガー・アラン・ポー
訳者 龍譚寺旻
初出 「宝石」1949(昭和24)年11月号 岩谷書店
世界幻想文学大全 怪奇小説精華収録 筑摩書房
龍譚寺旻訳の『アッシャア家の崩没』は何度も、字の美しさ、響きの美しさに何度も溜息をついて立ちどまってしまった。
ただ語彙の貧弱な私のこと、龍譚寺旻訳の字のなかには読みの分からない字もあったり、意味の分からない言葉もたくさんあったりで、足踏みをしながらの読書となった。でも、こうして足踏みしているとアッシャア家の様子が浮かんでくるよう。すらすら通過させてくれない訳文にも魅力があるものだなあと思う。
俳人でもあり日夏耿之介門下でもあった龍譚寺訳の魅力は、アッシャアのうたう詩「罔閬宮(もうりょうきゅう)」の訳に最大限に発揮されているのではないだろうか。以下はその一節。
In the greenest of our valleys,
By good angels tenanted,
Once a fair and stately palace—
Radiant palace—reared its head.
In the monarch Thought’s dominion—
It stood there!
Never seraph spread a pinion
Over fabric half so fair.
十善の天使栖(す)み給える
深谷なる緑いと濃き処
疇昔(そのむかし)瑰麗(うるわし)く、はた荘厳(おごそか)なる宮居ー
煜爚(かがやき)の宮居ぞー皇帝(みかど)「思想」の国原に
頂高く天聳(あまそそ)りー
宮柱太敷建てりき
かく美しき九宸(おおみや)を
六翼天使(セラフ)もいまだ舞い知らね
21018年3月24日読了