作者 遠藤周作
『怪談小説集』(講談社文庫)
「三つの幽霊」「蜘蛛」「黒痣」「私は見た」「月光の男」「あなたの妻も」「時計は十二時にとまる」「針」「初年兵」「ジプシーの呪」「鉛色の朝」「霧の中の声」「生きていた死者」「甦ったドラキュラ」「ニセ学生」…以上、十五短編が収められている。
遠藤周作の書く幽霊はどれも怖く、なんとも嫌な後味をのこす幽霊である。そして力も強く、相手を見つめる視線もずいぶん強い。
遠藤周作がルーアンで体験した怪奇談にでてくる幽霊も、幽霊というよりは悪魔のような印象さえ受ける。
カトリックの遠藤周作は、やはり幽霊は神と対立する力強い者、醜い者、恨みをいだく者として捉えていたのではないだろうか?
何時間たったのかしらぬ。夢うつつの中でぼくは先ほどよりももっと強い息苦しさを感じた。息苦しさというよりは何か太い手で胸をしめつけられていく感じである。(三つの有理恵より)
線路で轢死した国鉄の霜山総裁とよく似た男が現場をさまよう短編「月光の男」も好きである。
霜山総裁と似せて現場捜査をしている警察官だと判明したものの、実際に確かめてみると…という話で、意外性と思いを残して幽霊がさ迷う感じも何ともいい。だが読後は、そこまで思いが残っているんだなとあまり爽やかな気持ちになれないのも事実である。
この怪談集のなかでは「生きていた死者」が一番印象に残る。
文学賞をとった美貌の女子大生。その写真の隅にかならず写っている男。その男は戦中に転向して干された作家で、もう亡くなっているはずの作家だった。
やがて女子大生は事故にあい、死んでしまう。その書きかけの原稿には、女子大生のもとに見知らぬ男から自分の作品を女子大生の名前で出すようにという手紙が届く話が綴られていた。
作品をなんとしてでも世に出したいという亡くなった作家の思い。その思いは切ないけれど、最後、女子大生も悲劇をむかえる…なので読後感がよろしくない。
やはり幽霊は、能に出てくる幽霊のように、この世にでてきても旅のお坊さんに話を聞いてもらって、最後は成仏して帰っていく…というかたちがいいなあと思う。
2018年3月30日読