作者:火野葦平
文豪山怪奇譚(山と渓谷社)収録
のんびりまどろんでいた河童たちを千軒岳の噴火が襲う。最初は逃げ惑っていた河童たちも慣れると、宙を飛んで噴火口を覗きこみ…と、どこかユーモラス。そして河童たちが「蜻蛉の群れ」のように飛びまわる様は幻のよう。この幻は、最後のこの文によってより鮮やかに心に残る。
夜になれば、千軒岳の高原は無数の星によって満たされる。それはしかし星ではない。また蛍でもない。溶岩の中に身体は溶けてしまったけれども、いかなる高熱をもってしても溶けることのない河童の目玉のみが、鏤(ちりば)められた宝石のごとく、今もなお夜ともなれば溶岩の中に青白い光を放つのである。
河童の飛翔…という着想そのものがユーモラスであり、幻想的。その着想を短い作品の中に見事に描ききった筆力に圧倒された。
読了日:2018年5月6日