作者 フリオ・コルタサル
訳者:木村榮一
世界幻想文学大全怪奇小説精華に収録
イレーネとぼくが二人で暮らしている古くて、広々とした屋敷。その屋敷が正体不明のものに次第に占拠されていき、やがて二人は追い出されてしまう。
翻訳小説で建物をどう訳すか…ということは難しいものだと思う。造りが違うし、専門用語をならべても分からないし…。
「占拠された屋敷」でも、屋敷の様子は細かく記され、この描写を思い浮かべることができれば楽しめるのに…と残念。これだけ広々とした屋敷のなかに不可思議なものが棲みはじめ、やがて二人を追い出してしまう。この広さ、屋敷内を思い浮かべることができたら、作品からうける怖さも違うのだろうか?
「家の間取りは今でもよく覚えている。ロドリゲース・ペーニャ街に面した屋敷の奥には食堂、ゴブラン織りの壁掛がかかっている客間、書斎、それに寝室が三部屋あった。樫材の頑丈なドアがそこと建物の前翼を分かっていたが、前翼にはバスルーム、台所、ぼくたちの寝室、それに中央のリビングがあり、そのリビングはぼくたちの寝室と廊下に通じていた。マジョリカ焼きのタイルを貼った玄関を通って中に入ると、内扉があり、その向こうがリビングになっていた。つまり玄関から入って内扉を開くと、リビングに出るというわけだ。そしてその両側にぼくたちの寝室があり、正面には建物の奥に通じている廊下が見える。その廊下をまっすぐ進んで、樫材のドアを通り抜けると、そこから後翼がはじまっている」
静かに暮らしていたイレーネとぼくがついに着の身着のまま通りに追い出される。誰も占拠された屋敷の中に入らないように鍵をかけて、その鍵は溝に捨てて…。
静かな二人を追い出すとはなんと狂暴な存在かとも思いつつ、この静かな二人の狂気が生み出した存在なのかもという気もしてきて、そう解釈するとまた別の怖さが生じてきた。
読了日:2018年5月3日