初出1955(昭和30)年
光文社文庫
高木彬光は、言葉のセンスにも、物語の雰囲気づくりのセンスにも優れたミステリ作家だなあと一人盛り上がりつつ読んだ。
まずタイトルがいい。そして各章の章題もいい。舞台が興津という設定も風光明媚、要人の別荘地でありながら派手でないところもいい。作品で大きな役割をはたす急行の名前も「月光」に「銀河」というところもいい。
「人形はなぜ殺される」というタイトルの不思議さに心奪われ、本をひらいて目次を見れば、こんな素敵な章題があるなんて…と驚いてしまう。
各幕各場には、章題の域をこえた美しさ、妖しさ、リズム感がある題がならんでいて、これはもうミステリ詩のようではないか。目次をながめているだけでワクワク、満足である。
以下にタイトルと各章の章題をすべて書いてみた。右側緑の字で書かれているものは、1955年初刊本のものだそうである。(山前謙氏の解説参照)
「人形はなぜ殺される」
序詞 ← 序奏
第一幕 断頭台への行進 ← 断頭台の女王
第一場 魔術への招待
第二場 処刑の前の首盗み
第三場 起こらなかった惨劇 ←魔術の公理第一条
第四場 処刑の後の首盗み
第五場 女王の処刑
第六場 友の屍をふみ超えて ← あわれなる犠牲者よ汝の名は
第七場 捜査の常道 ← 誤れる捜索
第八場 ガラスの塔にて
第九場 黄金の魔術師
第十場 首を斬ったり斬られたり ← 精神病院の首斬り娘
第二幕 月光協奏曲
第一場 無名の手紙
第二場 興津への招待
第三場 殺人の場
第四場 人形はまた盗まれた
第五場 月光の客
第六場 犯人はこの中にいる ← 犯人はこの中にいる!
第七場 人形と人間の轢死体
第八場 西走東奔 ← スィッチ・バック
第九場 悪魔の側のエチケット ← 悪魔の公理第二条
第十場 人形の足跡
第三幕 悪魔の会議の夜の夢 ← 黒いミサの犠牲
第一場 世にも不思議な大魔術
第二場 刺されたトーテム
第三場 偽悪者詩人
第四場 魔法使いの弟子
第五場 日本巌窟王
第六場 オールド・ブラック・マジック
第七場 黒いミサ
第八場 獅子の座にこそ直りけれ
第九場 黒い手帳の秘密
第十場 ダンケルクの敗退
読者諸君への挑戦
第四幕 人形死すべし
第一場 舞台裏の対話
第二場 そなたの首をちょいと斬るぞ ← 首のない人形
第三場 黄金の城の崩壊
第四場 入らなければ出られない
第五場 その杯をほすなかれ
第六場 魔術破れたり
私の近況
「起こらなかった惨劇」より、「魔術の公理第一条」の方が、想像がつかないから楽しいかなあ…?
「首を斬ったり斬られたり」も印象が強いけど、「精神病院の首斬り娘」もいいかなあ…?
「首盗み」って辞書にはないけれど、高木彬光の造語なんだろうか? 怖いけれど素敵なセンス!
そんなことを思い、初版の章題、現行の章題を見比べるだけで楽しく時が過ぎていく。ミステリとしての楽しさは読書会で教えて頂き、皆様と盛り上がろうと思いつつ頁をとじる。
読了日:2018年5月31日