金沢に立ち寄ったときに古本屋めぐりをしたら、オヨヨさんで薔薇十字社から1972年に刊行された大坪砂男全集2を発見した。ミステリ読書会の方がアツく語っている大坪砂男ではないかと入手、まずは「天狗」(昭和23年宝石7・8月号初出)を読んでみた。
語り手のどこか滑稽なところもある異常さに笑っているうちに、だんだん笑いが怖さに変化していく不気味さは、赤蜻蛉の場面でクライマックスに達する。直接語らずして喬子の運命を赤蜻蛉に重ねて伝える大坪砂男の巧みさ。連想が連想をうんで恐怖が増大していく。
人の気配にも一向に飛び立とうとしない面白さに腰を落として手をさし伸べて始めて気がつく、これがいずれも屍体ばかり。怪しと見廻せば、そこら一面、目の玉と薄い翅。これだけが消化されずに残っている。苔は食中苔なのだった。
思うに無数の赤蜻蛉の精霊に守られるなら、さぞや喬子誇にもふさわしかろうと―この赤蜻蛉が赤鼻の天狗を連想させ、天狗が天狗飛切の術を着想させた。
ただトリックだけは、こんなに具体的に書かない方がよいような気もした…実行できるかと苦笑してしまう。
言葉と言葉をつなぎ、イメージをどんどんふくらませて物語を語る大坪砂男作品をもっと読みたいと思いつつ、頁を閉じる。
2018.0830読了