白熊が恋しくなる……
連日の猛暑。カップアイスの白熊でなく、お店で白熊が食べたいなあと思う。
白熊をご存知ない方もいるかもしれない。鹿児島天文館むじゃきが昭和24年に販売を開始したとされるかき氷だ。
氷にかかった程よい甘みのシロップ。まるで白熊の顔になるようにフルーツで飾った氷の愛らしさと言ったら……。氷の外側と内側に添えられた煮豆も素朴な美味しさ。
白熊を食べると、昭和の右肩上がりの時代に迷い込んだような感じになって、お先真暗な時代の閉塞感が忘れられそうだ。
東京近郊では、有楽町駅前鹿児島物産館のレストランで食べられる。白熊だけでもOKだったと思う。ただし混んでいる店なので、昼時、夕飯時は外した方が無難。通常サイズだとあまりにも大きいので、ベビー白熊の方がおすすめ。
丸山健二「おはぐろとんぼ夜話」を読む
屋形船おはぐろとんぼが露草村の村人たちのことを語る。
おはぐろとんぼの脳裏に浮かぶ村人一人一人の記憶が、それぞれ二行くらいの文で語られてゆく。
通常の小説なら、誰がどうした……次に誰がどうした……と進行するところ、丸山健二は二行単位の文で様々な記憶を連ねてゆく……。
最後の長編小説「風死す」を思わせる文体である。慣れてしまうと、こちらの方が様々な人間群像が浮かんで頭に入ってくる。
文字数をざっと目で数えると、以下の引用箇所は(34字19字 合計53字)(27字31字 合計58字)(27字20字 合計47字)である……。短歌の文字数にも近い……。
でも文を切ることなく、個々の村人を語る文を連ねてゆき、大きなひとつの流れを創り出している。人の頭の中を覗きこむような思いにもなる。
斜め後ろから飛ばされる険悪な視線を感じてふり返るたびに
そのつどそこに別な自分を発見し、
何気なく口走った冗談がもとで知己を傷つけて
せっかく築きあげてきた八十年来の親交を絶たれ、
ぼろぼろの人生の薄汚い舞台裏がお似合いの
無力にして無責任な影法師と化し、
(丸山健二「おはぐろとんぼ夜話)中339頁)
丸山文学によく出てくるもう一人の自分が出てきている……この自分は嫌な奴だなあと思わず引用。