丸山健二「おはぐろとんぼ夜話」を読む
屋形船おはぐろとんぼは周囲の自然に思いを寄せる。
丸山先生の目に映る信濃大町の風景にも、山との対話にも思えてくる。
自然を語ると同時に生死を、時を語る雄大さがよいなあと思う。
夏の盛りであっても山嶺に雪をいただく山吹岳を軸とする
晴曇定めなき天候に感情の動きをぴたりと合わせ、
朽ち葉にうずもれた墓のなかで魂を放棄する死者たちを
ひとり残らず黙って受け容れ、
時がもたらす善と悪の強固な結合を
胸がすくほどの手際によってすっぱりと断ち切り、
(丸山健二「おはぐろとんぼ夜話」中417頁)