さりはま書房徒然日誌2023年10月19日(木)

篠田真由美「螺鈿の小箱」より「暗い日曜日」を読む

ー箱はそれぞれ違うストーリーを秘めている!ー

(写真 楼閣人物蒔絵宝石箱 プラハ国立美術館 19世紀)

全部で七つの短編からなる「螺鈿の小箱」は、それぞれの短編に「螺鈿の小箱」が出てくるらしい……。
と、二つ目の短編「暗い日曜日」で気がつく。
一つ目の「人形遊び」では「鞭」が、二つ目の「暗い日曜日」にはまた違う身近なものが収められている。
それぞれの箱の中身の思いがけない使われ方が面白い。

またラストの幻想味あふれる、意外な終わり方も素敵。
トリックも上手くいくかドキドキして、無事にミッションが遂げられた時には思わず安堵。
シャンソン「暗い日曜日」や様々なカクテルも。
(ただしノンアル派の私にはまったく分からないがでも飲める方なら更に楽しめるだろう)

何よりもいいと思うのは、米兵相手に歌を歌い、時に子供を廊下に置いてホテルの部屋に行かざるをえない女たちを書きながら、作者の目は女たちを咎めることはなく、むしろ寄り添う視点が感じられる点である。

……それにしても箱にはストーリーがあるもの。
出先なので歌自体は思い出せないのだが……。
前回の歌会で、桐の小箱に自分の子供時代の写真をしまっている母親との、はるか昔のやりとりを詠んでらした年配の女性がいた。
桐の箱に我が子の写真をずっと入れている……という風景に、一つの物語を感じてしまった。
そう、箱には無限のストーリーがあるのかもしれない。
そんなストーリーを「螺鈿の小箱」で読んでいくのが、楽しみである。

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