さりはま書房徒然日誌2023年11月2日(木)

丸山健二「トリカブトの花が咲く頃」上巻を少し読む

ー草原が語る、しかも人の世に戦いが近づくと眠くなる不思議な草原ー

何やら嫌な存在に気がついた黒牛は姿を消す。
牛が逃げてゆく様子を書く文から、高原の緑、草いきれ、光がどっと押し寄せてくるよう……。とても好きな文である。

夏に甘やかされた風を追いかけて
ふたたび草と光の中へ出て行き

たちまちにして陽炎の大渦に巻きこまれ
太初の混沌のごとき絢爛たる光彩を放つ季節のうち奥奧へと
あっさり呑み込まれてしまう

(丸山健二「トリカブトの花が咲く頃」上巻156頁)

おそらく第二次世界大戦のことだろう。戦いの気配に眠りにつき始める巡りが原。
高原が語る。
しかも人の世に戦いが始まれば眠りにつく高原……という設定が、なんとも幻想味があっていい。

突如として太平洋上から急激にひろがってきた
何やらきな臭い気配が
わが感覚的世界をおぼろにさせ
いかんともしがたい睡魔に襲われ

そのせいで

より精神的な生き物に昇華するための
「解脱」という世にも稀なる結果を見ることなく
私は急を要する事態に投げだされ

人間の魂とはかならずしも合致しない
わが魂の存立に必要不可欠な眠りに落ちてゆき

かくして
あとはそれっきりになった


(丸山健二「トリカブトの花が咲く頃」上巻165頁)

巡りが原が眠りから目が覚めてみれば、戦さの前とではすっかり変わってしまった巡礼僧の姿があった……。
戦争を体験してきた者の戦後から、戦争の悲惨を描こうとしてきた丸山文学。
「トリカブトの花が咲く頃」にも、そうした戦争への問いかけあるのではないだろうか……という予感がしてきた。

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