さりはま書房徒然日誌2023年11月22日(水)

丸山健二「風死す」を少し再読する

ーもう一人の自分がたくさんいるー

たしか「風死す」には、主人公の「もうひとりの自分」的存在にあたるものが、名前は忘れてしまったが三つくらい出てきたような気がする。
わたしたちの記憶の中では、複數のもうひとりの自分が叫んで、それぞれの物語を紡いでいるのかもしれない……。
だが、そんなことを深く気に留めずに一回目は読んだ
今度は主人公の複数の「もうひとりの自分」の声に耳を傾けながら再読したいものだ。

宿命の延長としか思えぬ身の縮む思いの数々や 居場所を与えられぬための煩悶が
 常に方図もないことを言いつづけるもうひとりの自分に 丸ごと呑み込まれ


(丸山健二「風死す」18頁)

色々書き方は変化すれども、以下引用文のように丸山先生の思いは変わらず。かつてよりも強烈に、鮮明になってきているかも。

殊のほか手間取った国家予算編成に纏わる 思わぬ弱点の数々が
 次から次にさらけ出されて公益優先の原則と原理が無視され


 か弱き立場の国民が支配者層に死ぬことを求められる機会は
  愛国と護国の美名の下に急速に増大しつつあると見なし

(丸山健二「風死す」23頁)


丸山健二「トリカブトの花が咲く頃」下巻を少し読む

ー帰還兵の悲惨を知るー

巡りが原に衰弱した帰還兵が現れる。
今まで私が抱いていた帰還兵のイメージとは、無事に帰ってきたことを喜び、周囲から祝福される姿だった。
だが巡りが原が語る帰還兵の身の置き所のなさ、やるせなさに、戦争に行った兵士たちの死ぬも地獄、生きて帰るも地獄……を思う。
同時にそういう若者を大量に生み出しながら、「おめおめと」居座り続ける存在が、それを問うこともない社会のいい加減さが見えてくる。

ことほどさように急激な秩序の崩壊と権威の失墜のなかにあって
 唯一の拠り所であった武力にいきなりくつわを嵌められ
  だしぬけに戦闘とは何も関係ない事柄にぐるっと包囲されてしまった生き残りの兵士のひとりとして

 この若者もまた
  あまりにも開けっぴろげな強国によって新たに敷かれた国家的枠組みと社会的基盤にどうしても馴染めず
 駐留軍の兵士が投げかける勝ち誇りの眼差しと蔑みのほほ笑みにいつまでも憤れず
 望みもしない時代に強く拘束されることに耐えきれなくなり
  未来が何ひとつ実を結びそうにないように思え
   心の空白を何によって埋め合わせていいのかわからなくなってしまったのだろう


(丸山健二「トリカブトの花が咲く頃」176頁)

相も変わらず不条理な高みに鎮座まします天皇と同様
 いまだにおめおめと生きており
  荒廃した祖国に冷徹自若として佇んでいるおのれにどうしても我慢ならなくなったのだろう

(丸山健二「トリカブトの花が咲く頃」178頁)

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