丸山健二「千日の瑠璃 終結1」を少し読む
ー無邪気でもあり、一風変わっている少年世一ー
十月二十四日は「私はハングライダーだ」で始まって、都会の若者が操るハングライダーが田舎町まほろ町の住民の様子、隙あらば……と墜落の機会を伺っている自然を語り、やがて少年・世一に気がつく。
ハングライダーが迷惑げに語る世一の天真爛漫さに、心がしばし明るくなってくる。
二番目の段落「この際 言うべきことは つまり」という短い語句を行を変え連ねることで、ハングライダーの葛藤を感じてしまう。
少年・世一のことも、「鳥の羽ばたきを執拗に真似る少年」「私から離れようとしない羨望の塊」と無邪気とも、どこか一風変わったところがあるようにも語っている。
世一の熱狂ぶりとハングライダーのクールさが妙に心に残った。
鳥の羽ばたきを執拗に真似る少年の熱い思いが
私を追いかけては付き纏い、
ほどなく嬉しさを通り越してありがた迷惑を覚え
この際
言うべきことは
つまり
どうやったところで人は鳥にはなれない現実を
きちんと言っておいたほうがいいと思い、
ところが
私から離れようとしない羨望の塊は
まったく耳を貸さない。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」96頁