丸山健二「千日の瑠璃 終結1」を少し読む
ー鳥のイメージが繰り返され、読み手の頭の中で一つにまとまってゆくー
十二月九日は「私はかんざしだ」で始まる。この箇所では、小鳥がふんだんについた「かんざし」から、老いた芸者の顔の鳥の形をした痣まで、形を変えながら鳥のイメージが丁寧に語られている。
以下引用文。こんな可愛らしいかんざしがあるのだろうか……そんなかんざしを老いぼれの芸者がしている意外さ。
老いぼれ果てた芸者の頭で小気味よく揺れる
金と銀の小鳥をふんだんにちりばめた
鼈甲のかんざしだ。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」278ページ)
かんざしが語る、それも小鳥をふんだんに散りばめたかんざし……という有り得ない感じが、「合計十五羽」と具体的に数字が出てくることでピューっと消えてゆく。
すっかり凍えた手に息を吹きかけて
ひと足踏み出すたびに
私は合計十五羽の鳥をいっせいにさえずらせる。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」278ページ)
以下引用文。
老いぼれ芸者の顔の痣も鳥の形になぞらえている。
「千日の瑠璃」では、世一と与一が飼っているオオルリが大切な鍵なのだろう。モノが順々に語って話を進めてゆく……という突拍子もない形を取りながら、オオルリという鳥のイメージなど全体を貫く共通項があるから、馴染んでしまえば追いかけやすい気がする。
飛んでいる鳥がガラス戸にぶつかって
そのまま貼り付いたとしか思えぬほどの
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」279ページ)