さりはま書房徒然日誌2024年4月15日(月)

丸山健二「千日の瑠璃 終結1」を少し読む

ー小さな存在に向ける視線の優しさ、「鳴く」の繰り返し効果ー

十二月二十八日は「私はコオロギだ」で始まる。

「風呂場の予熱に頼って 少しでも長く生き延びようと頑張る ぼろぼろのコオロギ」と、刑務所を出所してきて背中に緋鯉の刺青がある男が五右衛門風呂に入るひとときを語っている。

コオロギ、それから刑務所から出てきた男……という世間から見られることのない存在に、あたたかい視線をそそいで語るところも、丸山文学の魅力だと思う。


以下引用文。そんなボロボロのこおろぎの思いを語りながら、小さな生き物でも自然界の一員である……そんな思いが伝わってくる。


同じ言葉の繰り返しを嫌う丸山先生にしては珍しく「鳴く」を繰り返している。そのせいでコオロギの鳴く声が聞こえてくる気がする。

私はただ漠然と命の糸を紡いでいるだけでなく
   消えがたい印象を残そうと常に心掛けながら
      我ながら健気に生きる自身のために鳴き
         大地に縦横に走るさまざまな命の形跡のために鳴き、
            終末なき世界であることをひたすら祈って鳴き、


            そして
                毎晩のように長湯をする
                   この家の主人を励ますために鳴く。


(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」354ページ)

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