さりはま書房徒然日誌2024年8月8日(木)

丸山健二『千日の瑠璃 終結3』六月十二日を読む

ー「馬」を語る文ののびやかさー

六月十二日は「私は馬だ」で始まる。うたかた湖の近くで飼い主に捨てられた乗馬用の馬が語る。
以下引用文。丸山先生の書く馬の姿は、どの作品でも実に気持ちよさそうな雰囲気がある。この捨てられた馬にしても、「波打際」「冷たくて甘みのある水」「柔らかくて香りのいい青草」という言葉から浮かんでくるのは、のんびりと生を味わっている姿である。

人気はなく
   聞こえるのは鳥のさえずりと羽音のみで、

   少しばかり落着きを取り戻したところで
      私は波打際をまで行き
         冷たくて仄かな甘みがある水を飲み、

         それから
            岸辺に生えている柔らかくて香りのいい青草を
               しみじみと味わいながら食んだ。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結3』219頁)

以下引用文。捨てられることで馬が獲得した自由も、「突風になびく草にも似た動きをする少年」と語られている世一の姿も、やはり自由そのもので心に刻み付けられる。

要するに
   まだおのれが置かれた状況や立場を充分に理解しておらず、
      行き先についてもはや誰の示教を仰がなくていいこと
         今後の展開の万事がわが方寸に在ること
            それを知らず、

            知ろうともしないまま
               角を曲がったところで
                  突風になびく草にも似た動きをする少年と
                     ばったり出くわし、
                     その刹那
                        運命的な出会いを直感した。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結3』220頁)   

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