丸山健二『言の葉便り 花便り 北アルプスの山麓から』より「時は常に朧なり」を読む
大町で暮らす丸山先生が庭の花々の開花に陶然とする言葉の勢いに圧倒されつつ、大町の冬の厳しい寒さを思う。
寒い分だけ春の訪れを堪能できる丸山先生の心と、私が身を置いている冬もぬくぬく暮らせる便利さとではどちらがいいのだろうかとも思う。
花々の開花をこんな風に感じることはできない己に、冬の間おそらく雪で真っ白な世界に暮らす丸山先生が羨ましくなる。
でもやはり雪も寒さも嫌なのだが。
それらの開花が複雑に絡み合って織り成す空間のど真ん中に八十年間生きた身をそっと置き、色とりどり、形状さまざまな花が奏でる、不協和音を多用した現代音楽的な交響曲に陶然となる数日間、
丸山健二『言の葉便り 花便り 北アルプスの山麓から』30ページ
精神の蟄居が突然解除されたかのような、あるいは魂の餓死から免れたかのような、そんなひと時に浸ることができれば、
丸山健二『言の葉便り 花便り 北アルプスの山麓から』30ページ