丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より三月二十日「私は意見だ」を読む
家の建つ丘をリゾート会社に売り払い儲けたい世一の父親。売り払うことなく鯉を飼いながら静かに暮らしたい世一の叔父。
二人の話し合いはすれ違いに終わる。
お茶のすすめを断って帰っていく叔父。
以下引用文は世一の叔父にあたるそんな男の、大切にしているものが象徴されている箇所なのではないだろうか。
物ではなく、追憶を土産として背負い、猛吹雪の奥へと帰っていく……という姿に、丸山先生が憧れる姿があるような気がする。
弟は「いつかそのうち」と言って
甥への土産の鳥寄せの笛を手渡し、
自分への土産として
この家で過ごした幼少時代の追憶を背負い
春の嵐とも言うべき
猛吹雪の奥へと分け入った。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』145ページ)