丸山健二『千日の瑠璃 終決6』より四月六日「私は外階段だ」を読む
外階段に立つ娘と周囲の霧。
霧の動きが娘の心を、作者の想いを語っているようで面白い。
外階段が語る、という設定も、人が使うものであり、外界と繋がるものであることを考えると興味深いものがある。
以下引用文。「彼女の首から下までを覆い隠し」という表現や、「苦悩は海の底に沈んでゆき」という文が、どこか抽象画を眺めているような気持ちにさせてくれる。
私が支えているのは彼女の体重のみで
ほかには何もなく、
その間に霧はなおも勢いを増してどんどん押し寄せ
町内一帯に蔓延り
ついには彼女の首から下までを覆い隠し、
世間のどこでも見られる
ありふれた苦悩は霧の海の底に沈んでゆき、
あらゆる問題が
取るに足りない出来事として
過去へ押し流されてしまう。
(丸山健二『千日の瑠璃 終決6』213ページ)