丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より四月九日「私は炊き込みご飯だ」を読む
うつせみ山に一人暮らす老人が山道で危ない目にあったけれど、無事に危機を脱した祝いに作ったこと「炊き込みご飯」が語る。
丸山先生は、以前にも身の廻りにある安い材料で作る、すごく美味しそうなレシピを語っていたことがあった。
この炊き込みご飯も、食べたことのない味ながら、見るからに美味しそうな気がする。
このほとんどお金をかけない美味しさが、その後に続く老人の気持ちをよく引き立てているのかもしれない。
そして彼は
サバの水煮缶といっしょに
出盛りの根曲がり竹の筍を刻んで
よく研いだ米に混ぜ
手製の竈でじっくりと炊き上げ、
下ろし大根をおかずに
炊きたての私を頬張りながら
「まだまだ私も捨てたものじゃないなあ」と
自画自賛をくり返した。
それから
まだ生き延びたがっているおのれに気づいて
「この救いがたい俗人め」と
さも嬉しそうに呟きながら
この期に及んでまだ悔んだりする自分を卑下し、
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』223ページ)