作者:メリメ (1837年)
杉季捷夫訳
世界幻想文学大全怪奇小説精華(筑摩書房)
この短編の冒頭にでてくるカニグーの丘とは、サン・マルタン・カニグー修道院がある地の丘だろうか?若いころ、観光半分でうけたペルピニャン大学夏期講座の遠足でこの修道院を訪れたことがある。ほんとうに急峻な山の上にある修道院で、修道院の記憶よりもまわりの景色のほうが記憶に残っている。
ペルピニャンの女たちが見せる踊りとは、カタロニヤ地方の人たちが今でもよく輪になって手をつないで踊るゆったりとしたリズムの踊りだろうか…
ペルピニャンでは、夜になれば町の広場でカタロニヤの踊りをみんなで輪になって踊っていた。スローなテンポだが、案外ついていくのは難しかった…などと昔のことを思い出しながら懐かしく読む。
怪奇文学なんだけれど、なぜか美味しそうなバルセロナのショコラを飲む場面が二度ほど。チョコが好きな私はとても気になってしまった。ショコラがでてくる怪奇文学は他にあるのだろうか?
ちなみに19世紀初頭、カカオは品薄になり、やがて1828年にバンホーテンがココアを製造したそうだ。この短編にでてくるショコラは、当時としては昔風の飲み物だったのだろうか?
それにしてもこの短編の立像は、なぜ花婿を標的にしたのだろうか?花嫁に嫉妬したから?それともダイヤの指輪をとられまいとしてなのか?
眼は、少し藪にらみで、口の両端がつり上がり、鼻孔はいくらかふくらんでいた。軽蔑、皮肉、残忍、といったようなものが、それにもかかわらず信じられないくらい美しいこの顔の上に読まれたのである。
この美貌も想像がつかないし、花婿を標的にした動機も今一つ想像がつかない…でも怖い。ただ文楽が好きな私としては、人形がこんなに怖く、剛力の存在であってよいものかと戸惑う。
怪奇文学における人形像は日本と外国では違いがあるような…。この違いは何処から生じるものなのだろうかと思いつつ頁をとじる。
2018年3月19日読