作者:オラシオ・キローガ
訳者:甕田己夫
世界幻想文学大全 怪奇小説精華収録
守ってくれるはずのもの、身近にあるものが、実はそうではなかった…という現実に、根底から崩れるような不安定さを感じて怖くなる作品。
冒頭の段落も思わず「なぜ」と引き込まれて読んでしまう。ただ、よく考えてみると夫の性格に矛盾があるような…。これで「心底から妻を愛していたのである」ということになるのかと疑問だけれど。
「ハネムーンは長い慄きだった。金髪で純真、そして内気な、新婦の夢見がちな子どもらしさを、夫の厳格な人柄は凍りつかせてしまった。彼女は夫をとても愛していたが、時おり、夜二人して帰宅するときなど、もう一時間も黙り込んでいるホルダンの長躯を、かすかに震えながらそっと見上げることがあった。夫の方はと言うと、態度で表すことはなかったが、心底から妻を愛していたのである。」
新居も心休まる場所ではない。妻の心につのる不安に、読んでいる方も怖くなる。
「二人が住む家も、彼女のおびえに少なからず影響した。静かな中庭で絵様帯や円柱や大理石像が見せる白っぽいたたずまいは、魔法にかけられた宮殿の秋のような印象を与えている。屋内では、わずかな掻き傷もない高い壁に化粧漆喰が氷のように輝いて、そうした不快な涼しさをより強く感じさせた」
ただ「不快な涼しさ」という訳し方には、涼しいのが大好きな私としては少し疑問が残るのだが。
最後に妻アリシアは亡くなってしまう。その羽まくらは異様に重く、中をあけてみると…。これから先の描写は具体的すぎるあまり怖い。
夫も、家も、枕も信じることはできない…というメッセージに怖くなる作品。
読了日:2018年5月3日