1957年11月刊行、作者が29歳のとき。
小説に作者の人柄が反映されることもあるのだろうか? 「猫は知っていた」を読んでいると、作者・仁木悦子の温かな心を感じることしばしば、殺人もでてくるミステリだというのに心癒やされる思いがする。
仁木雄太郎・悦子兄弟が、犯行現場をふたりで再現して演じる場面にも、太陽にあてている寝小便布団のかげから幸子が顔をだす場面にも、思わず微笑みがうかんでしまう。そして何よりも、幸子の心を思いやる仁木悦子の気持ちにも温かなものを感じる。
ただ果たして「猫は知っていた」的になるのだろうか? 大事な小道具も死語で若い読者にはイメージがうかんでこないのでは? 毒物がそう簡単に入手できるのだろうか?悪い男にふられたからといって発狂するだろうか?と疑問は次々とわいてくるが、ただ仁木悦子の温かな視線にひかれて他の作品も読んでみたい。2019.05.16読了