昭和36年「小説中央公論」発表、三島36歳の時の作品。
二二六事件に参加した友人たちを討つことはできぬと自害する夫に、妻・麗子も忠節をつくして自害する。
自害という共通体験をとおして愛する者と一緒になる喜び、そして悲しみ。相反する感情もさることながら、自害して夫が死にいたるまでを見つめる妻・麗子のときの長さ。そこに歌舞伎や浄瑠璃の世界の時の流れに共通するものを感じる。
橋本治も国書刊行会「三島由紀夫」のあとがきで、「もっとも完成した近代語による丸本歌舞伎と言ってさしつかえないだろう」と評している。
三島の文学のなかに浄瑠璃文が、歌舞伎が受け継がれていることに驚きつつ頁をとじる。
(2019.05.17読了)